月に数千件の顧客問合せ業務1件あたりの処理時間が13分から4分へ
実務部門の協力を得て、短期間での本番稼働を実現
当初想定していた生成AIだけの自動化から、ロボットとの組み合わせにシフト
概要
トヨタファイナンス株式会社
https://www.toyota-finance.co.jp/
本社:愛知県名古屋市西区牛島町6番1号 名古屋ルーセントタワー
業種:金融業
トヨタグループ内でファイナンス事業を統括するトヨタファイナンシャルサービスの子会社。1988年にトヨタ自動車から分離・独立し、国内向けの金融事業を手掛ける。残価設定型クレジットなどの販売金融事業と、「TS CUBIC CARD」をはじめとしたクレジットカード事業を両輪とするほか、ネット保険や旅行予約などカーライフにまつわるユーザー支援サービスも提供する。キャッシュレス決済アプリの「TOYOTA Wallet」を開発・運用し、自動車クレジットの利用・管理から日々の買い物の決済、駐車場予約などに至るまでトヨタ、レクサスのオーナーの生活を支える。
自動車業界に変革が押し寄せるなか、トヨタファイナンスではシステム投資のあり方に変化を余儀なくされていた。顧客接点の強化に向けた投資に舵が切られ、バックオフィスへのシステム投資は相対的に制約されるようになってきた中で同社が選んだのは、AIとロボットを組み合わせた新たな自動化アプローチだった。UiPathのプラットフォームを活用し、問合せ対応業務にかかっていた時間を約3分の1に削減できることをPoCで確認。人とAI、ロボットの役割分担による業務改革が動き出した。

クルマの購入から利用までの各種金融サービスで支えるトヨタファイナンス。販売金融とクレジットカード事業を軸に、キャッシュレス決済アプリの「TOYOTA Wallet」などを通じて顧客との接点の拡張・強化を進めている。デジタル業務推進部 部長の平野賢一氏は、「特にTOYOTA Walletは、オーナーとどうやってつながり続けるかのリテンションを、金融の力を使って強める狙いがあります」と語る。
トヨタファイナンスデジタル業務推進部部長平野 賢一 氏
だが、自動車クレジットやクレジットカード事業に加えて、生活サービスでお客様の継続利用を促進するフロントエンド事業へ注力する方針が、同社のシステム開発や運用にも変化を迫る。平野氏は「金融事業は、クレジットカード事業一つをとっても内部システムに莫大なコストがかかります。これまで多額の投資をして融資や審査などバックエンドのシステムの自動化を進めてきました。一方で、お客さまの手に触れるTOYOTA Walletなどの充実を図るようになり、投資の中心がバックエンドから顧客サービスにシフトしています。内部のコーポレート向けのシステムへの投資が、相対的に減少しています」と明かす。
バックエンドの業務システムに大々的な投資がかけられなくなると、既存システムの抜本的な変革が難しくなる。そのため自動化などの施策を随時実施することで、オペレーションコストを下げて改善に対応してきた。しかし「現時点で自動化できていない業務は、自動化作業を外注してもROI(Return On Investment:投資対効果)が出にくくなっています。RPA(Robotic Process Automation)などのツールを使って自動化システムを内製してきましたが、既存のツールでは業務効率を上げることに限界を感じていました」(平野氏)。そのため、レガシーの仕組みを生かしながら、自動化できていないプロセスを自動化して、業務改善の効果を出していく必要があった。
既存のRPAツールでパソコンなどのUI(User Interface)を操作する自動化はできても、判断が必要な複雑なロジックはUIの組み合わせだけでは実装が困難だった。そこで、ビジネスロジックも実装できる自動化ツールの導入の検討を始めた。
ビジネスロジックの自動化実装の検討と併せて、AIの活用にも力を入れていった。デジタル業務推進部 デジタルワーク推進グループ 主任の平井悠貴氏は、「生成AIの広がりを実感し、リテラシーの底上げを実践してきました。MicrosoftのCopilotなどを使って、個人業務の自動化や品質向上は実現できました。ただ、それだけでは業務の自動化にはつながりません」と語る。EUC(End-User Computing)やRPAを導入して自動化を推進する視点から、人間の介在が必要になるあいまいなニュアンスの判断についても、生成AIを活用したいという考えが浮かんできた。
トヨタファイナンスデジタル業務推進部 デジタルワーク推進グループ主任平井 悠貴 氏
そこで、「明文化できていなかった業務を生成AIに任せることで“いい感じ”に処理してくれるのではと考え、試行を始めました。AIエージェントの話題が大きく取り上げられるようになった2025年春ごろのタイミングで、SIerと共同でAIエージェントプラットフォームを使った実証を始めました」(平井氏)。
具体的には、顧客のメールに対する返信の自動化業務に、AIエージェントを適用するPoC(Proof of Concept:概念実証)を実行した。同社が用意しているメール返信のテンプレートやマニュアルについてRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)を使ってAIに登録し、自社の情報をもとに回答させる仕組みだ。しかし、「同じ質問に対して異なる回答を作ったり、禁止したことを実行したりと、場合によっては生成AIだけではコントロールが難しいことがわかりました。現場で設定した正解率のしきい値を超えることはできず、最終的に生成AIに完全に任せることはできないと判断しました」(平井氏)。
PoCの作業を通じて、業務処理は突き詰めるとビジネスロジックの塊であり、ルールベースで確実に動くロボットが中心のAIエージェントプラットフォームが適しているという気付きは得られた。そこで「ロボット中心でビジネスロジックを実装できるプラットフォームとしてUiPathに着目し、導入の検討を開始しました」(平井氏)。UiPathが提供するAIエージェント作成ツール『Agent Builder』と『Robots』の組み合わせに目を付けた。
生成AIに完全にメールを作成させるのは見送った上で、「こういう問合せが来たときには、このテンプレートが適しているという振り分けをするだけでも現場の業務効率は上がると考えました」(平井氏)。UiPathに現状を伝えたところ、翌週にはAIエージェントとロボットを組み合わせたハンズオンのデモが出来上がってきた。デモを見て「AIエージェントとロボットを組み合わせた方向性ならば、生成AIが自動化に役立つと感じました」と平井氏は当時を振り返る。
具体的には、Webフォームへの新規の問合せに対して、顧客情報システムなど既存のシステムからロボットが情報を収集し、回答作成AIエージェントが回答案を作成する。ロボットとAIエージェントと人間を、ビジネスロジックの中で適材適所に組み合わせて、業務効率をアップさせる方策である。80%の精度をクライテリアとしてPoCを実施したところ、生成AIだけでは達成することが出来なかったが、UiPathでロジックと組み合わせることで93%の精度を実現することができた。

この方策に対するPoCを実施したところ、想定を超えた効果が得られた。デジタル業務推進部 デジタルワーク推進グループ グループマネージャーの高橋智真氏は、「13分かかっていた業務が、4分へと短縮できました。従来比約3分の1まで時間を削減でき、現場のメンバーも驚くほどでした。顧客情報システムを調べたり、社内情報を確認したりする部分をロボットで自動化し、文面を作成する作業をAIエージェントに任せるといった分業が効果的だったと感じています」と語る。
トヨタファイナンスデジタル業務推進部 デジタルワーク推進グループグループマネージャー高橋 智真 氏
このWeb問合せシステムは、2025年10月からPoCを開始し、2026年1月には本番稼働にこぎつけた。AI中心の自動化から、ルール化したロボットとの組み合わせによる自動化に切り替えるためにUiPathとディスカッションを重ねた結果である。高橋氏は、「アプリ開発に半年~1年かかることがあるなかで、着手してから3カ月で本番実装できたスピード感を評価しています。担当者やUiPathだけでなく、実務部門の協力もあって実現できました。Web問合せへの回答の時間が3分の1にまで減ったことは、実務部門にとっても大きな成功事例であり、彼らがUiPathを使った自動化を前向きに捉えるきっかけになりました」と振り返る。
ロボットとAIエージェントを組み合わせてビジネスロジックを自動化する取り組みを進めてみたことで、気付きもあった。平野氏は、「バックオフィスの業務には、人間が判断しなければならないあいまいなニュアンスが多く含まれると考えていました。ところがPoCを通じて、その多くはビジネスロジック化できることがわかりました」と明かす。「人間の知恵や経験に頼って自動化が困難だと思い込んでいた業務でも、ロジック化により高度に自動化できるとわかったことも、今回の取り組みの成果の一つでした」(平井氏)。
AIとロボットを組み合わせた自動化の推進は、Web問合せ以外でも実を結んでいる。平野氏は「経費精算の自動化についてもPoCも実施しました。UiPathが提供するAI-OCRの『Document Understanding』を使って請求書をデータ化し、その後の処理をロボットで自動実行させる仕組みです。当初、経理部門では別のシステムを構築する計画があったのですが、UiPathのプラットフォームを使うことで、すぐにシステムを試行できました。単純にドキュメントからデータを読み取るだけではなく、社内のマスターデータと紐づけをチェックまで自動化で行えるため確認作業が効率化できます。」と、プラットフォームの適用範囲の広さを実感している。
実際に、電話応対などのフロント業務や、審査や経理などのバックオフィス業務には、数十億円のコストがかかっているという。これまで自動化できなかった業務に、AIとロボットを組み合わせたUiPathのプラットフォームを適用することで、「バックオフィスの業務量を半分にできれば」と平野氏は将来に期待する。高橋氏も「社内のシステムには、多品種少量の業務や紙を使った手続きなどもまだ残っていて、自動化の余地はあると感じています。成功体験を積みながら、AI活用を推進していきます」と語る。
バックオフィス業務の自動化やシステム化に対して投資しにくい状況では、自動化システム内製も継続して実行することが効果的だ。「業務をわかっているユーザーがUiPathを使いこなせるようになることが、自動化には欠かせないと感じています。内部向けのサービスを自前で改善していくには、UiPathのプラットフォームなどを使ってAIやロボットを活用していかなければならないのです」(平野氏)。
内製開発が必須という背に腹は代えられない状況で、AIやロボット活用の姿を自社業務に最適化してきたトヨタファイナンス。平野氏は、「レガシーの仕組みにUiPathが介在することで、業務の自動化をする形が見えてきました。これまで人間がやってきたことが、UiPathを実装することでロジックとして整理されています。AI活用と同時にレガシーのスリム化も推進しており、最終的には既存システムに引きずられない形での業務再構築を目指しています。UiPathは従来のシステムを活用しながら業務を整理して自動化するのに役立っていますし、これからAIを前提にした業務を構築するときにも活用できるでしょう」と語る。
こうしたAI活用や自動化は、現場の従業員協力あってのものという考え方も浸透させる。「自動化を外注するのも手ですが、私たちは自分たちの業務を自ら自動化する内製を目指します。自分たちがUiPathのようなツールを使ってデジタル変革の主役になる姿です。弊社のおよそ2000人の従業員が、大事な仕事にリソースシフトし新しい仕事を生み出すための武器として、UiPathを使いこなしていきたいです」(平野氏)。UiPathを基盤に、AIとロボットを適材適所で組み合わせる取り組みは、同社のデジタル変革を着実に前へと進める原動力になっていきそうだ。
「金融業務は振ったサイコロの目で動くことはできません。必要なところはロボットで確実に動かし、判断や文章生成などに生成AIを使う組み合わせが適していました」
――トヨタファイナンス
デジタル業務推進部 部長
平野 賢一 氏