お客様株式会社日本取引所グループ

業種銀行および金融サービス

地方アジア太平洋&日本

高精度を恒常的に要求される作業をRPAが代替 そこには数値化できない大きなメリットがある

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銀行、証券業界を取り巻くFinTechの大きな流れは、金融商品取引所である日本取引所グループ(以下「JPX」)にも影響を与えつつある。公的な存在として正確な情報発信が求められるとともに、金融サービスの利便性向上に向けたニーズも高まっている。歴史ある伝統的企業でありながら常に先端技術を採用して、革新を起こしてきた同社は今、RPAによって業務の効率化を進め、堅実性と俊敏性を両立しようとしている。

先端技術を活用した業務高度化を目的としてRPAに注目

JPXは傘下に東京証券取引所や大阪取引所をもつ、アジアを代表する総合的な金融市場インフラを提供する取引所グループである。同社はITを競争力の源泉・武器として考えており、日々進化する技術を最大限活用し、信頼性・利便性の高いマーケットインフラの構築、サービスの提供を進めている。2015年には株式の売買システムの「arrowhead」を、2016年にはデリバティブ取引の売買システムの「J-GATE」を、2018年2月には上場デリバティブの清算システムをリプレースした。

これらに加え、業務と密接不可分なシステム群を次のターゲットとして「類似機能の再配置やデータの流れの一本化といった観点から、情報系システムの再構築に取り組んでいます。再構築にあたっては、生産性向上や事務ミスリスク削減、ユーザ満足度向上など業務改善を進めています」とIT開発部情報システム担当課長の岡田暁光氏は語る。

また、JPXでは先端技術の活用に向けて、総合企画部にフィンテック・ラボと呼ばれる専門チームを設けている。RPAに注目したのは、当時そのメンバーだった保坂豪氏である。「RPAという言葉を徐々に見聞きするようになったのは、2017年の1~2月頃からだったと思います。RPAベンダーにコンタクトを取り、本当に使えるのかどうか調査を始めました」と話す。

同社では、両部署の合同メンバーによるプロジェクトチームを設け、RPA製品の中から国内導入のサポート体制が敷かれている3製品に絞ったうえで、5月ごろから、実際に社内で行なわれている4つの業務を対象に、3製品を使ってロボットを作成し、作りやすさや動作の安定性、業務への適用性、導入効果などについて比較検討を行った。

従来、コストメリットの観点からアプリケーション開発に至らない業務に関しては、Excel上でマクロを活用するといったことで業務効率化を図っていた。しかし、RPAならブラウザの操作やシステムやアプリケーションを横断的に処理するシームレスな自動化が可能になる。RPAへの期待は大きく膨らんだ。

4つの業務を3つの製品で検証し満場一致でUiPath導入の決定

RPAの実装への移行に当たっては、いくつかの部署に声をかけ、RPAで効率化を図れそうな業務が無いか案件を募った。「ベンダーから提供されたデモもありましたが、社内の業務のプロトタイプを作成してその動作を動画で見せました。ベンダーの一般的なデモ説明よりも、実業務がどう変化するかを見せたほうがはるかに理解されやすく、類似業務に携わる若手や中堅社員を中心に、高い関心が寄せられました」と保坂氏は振り返る。

9月までには、それぞれの製品ごとに、適用可能性や導入効果、社内LAN環境との適合性などについて検証を行った。各業務を提供してくれた部署へフィードバックすると「このまま継続して使用したい」とライセンス購入の要望が出された部署があるなど、保坂氏らは「RPAに対する現場ニーズの強さを確信した」という。

こうした検証作業の結果、導入するRPAはUiPathに決定した。岡田氏は「3製品の中でもUiPathは、業務の自動化フローを構築する際の機能が豊富な上に、操作画面のUIも洗練されていて、開発者、利用者双方にとって使い勝手がいいと評価しました」と使い勝手の良さが決め手だったと語る。

一方、保坂氏が注目したのはスケーラビリティだ。「RPA化の要望がどのくらいのボリュームで出てくるのかが未知数である状況下で、UiPathはクライアント型でスモールスタートできる上、サーバー型への移行が可能な点で魅力でした」と話す。

また、UiPathは米国に本社を持つグローバル企業であり、それまでほぼ英語のみだったドキュメントも日本語化が2017年夏から秋にかけて大幅に進んだほか、日本法人にJPX担当者がアサインされるなど、UiPathのサポート体制の日本化の動きが加速していたことも追い風となった。

「日本企業向けのサービスが充実していき、細やかに対応していただけるようになりつつあるという実感がありました。更に整備が進むだろうという期待もあり、10月初めにUiPathの導入を決定しました」と岡田氏は語る。この決定は、「検証に関わった人間の総意」だったと両氏は口をそろえる。

導入希望部署は予想の3倍以上 対象業務数は約350業務に上った

UiPathの導入を決めると同時に、同社では社内のニーズの洗い出しに取り掛かる。10月に社内向けの説明会を開催し、RPAの製品説明と検証で作成したデモを行い、11月までにRPAツールの利用希望や利用対象業務についてのアンケートを実施した。

結果は、導入希望部署が30部署超と事務局の予想の3倍以上に膨れ上がり、ほぼ全社からのオファーがあった結果、対象業務数は約350にも上った。それを受けて銀行などへの導入支援の実績を持つ日本アイ・ビー・エムに、体制やガバナンスの構築についてアドバイスも受けた。

「予想を大きく超える導入規模になりましたが、経営陣のRPAによる業務改善への期待も大きく、3倍のニーズにかなう体制づくりができました」(岡田氏)。

2018年4月から、各部でロボットを業務に適用していく本格導入フェーズに入っている同社だが、ロボットの開発に当たっては、2つの方法から選択できる体制を用意している。自部署でロボットを開発する方法とIT開発部にロボットの開発を依頼する方法だ。

自前で開発できる部署には開発ライセンスを付与し、実際に開発を行なうメンバーには、事務局と一緒に日本アイ・ビー・エムによるハンズオン研修を受講できるようにするなど、事務局が持つナレッジを共有し、各部署内で構築運用できるような取り組みを整えた。

また、IT開発部内にはRPA専門の事務局を立ち上げ、専任のロボット作成部隊として4名常駐し、各業務部門とコミュニケーションを取りながら、ロボット構築に取り組む。

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東京証券取引所 IT開発部 課長 情報システム担当 岡田 暁光氏

「まず業務改善ありき」の発想でロボット開発の前に業務を見直す

実業務へのRPAの適用に当たって同社が重視したのは、適用前に業務自体を見直すというフェーズを入れることだ。単純に今ある業務を1から10までそのままロボットに置き換えるという発想では、非合理な業務をそのまま固定化してしまうといったリスクもある。

「業務効率化という枠組みの中で、RPAはあくまでもひとつのツールでしかありません。RPA化をきっかけとして、今一度業務そのものに疑問を持ち、見直しをする。そして、ブラッシュアップした上で、RPAを導入していくよう、強く意識しています。RPA以前に業務改善ありきです」と岡田氏は語る。

RPA化を希望する業務について、まずはヒヤリングを行い、RPAで実装できるかどうかも含めて検討する。例えば、受領するデータ形式をPDFからExcelに変更することで自動化できる場合や、自動化できる部分を最大化するために業務フロー自体を見直すなど、業務部門での調整を提案するケースもある。

「作るだけではなく、実際に使用していく中で『もう少しこうしたい』と仕様を変更したり、業務そのものが変化した場合に各部署内である程度メンテナンスできるようにすることで、より長期間にわたってRPAを活用できるようになると考えています」と岡田氏。

実際にロボットを構築するのには、2週間以上かかることもある。保坂氏は「業務プロセスの見直しも併せて行うため、前さばきに時間がかかり、納めた後に追加要件が発生することも少なくありません。こうしたアジャイル開発的な対応を含めると、現実には2週間では厳しい」と言う。

現在は、「作ってもらいたい」という導入部署の要望の強さと、ロボット開発の難易度を考慮しながら、優先順位を決めて一つずつ作っていく感じで進めているという。

ストレスの軽減や品質の向上など数値化できないメリットがある

現場がRPA化を望む業務の共通点は「毎日、毎週、毎月など、定期的に行われる難しい判断を伴わない定型作業で、かつ手間がかかり、ストレスやリスクが内在している業務」であることだ。

例えば、コンプライアンス関係の業務の中には、複数のデータベースに照会を行う必要がある。照会件数が多い場合は、1人の社員が一日中照会作業をし続けることになる。そうした業務をロボットが代行することで、照会部分を自動化し、社員はその結果をもとに判断を行うことが出来ることから、その社員のストレスやプレッシャーを緩和することができる。

RPAの導入効果としては、わかりやすい作業時間の削減に目が行きがちだ。「しかし、当社の場合には、ストレスのかかる仕事を業務から取り除くこと自体に大きな効果があると感じています。決して人員や残業代の削減が目的ではありません。あくまでも、日常の業務を支援するツールとしての位置づけであることを丁寧に説明しています」と岡田氏は指摘する。

4月に異動して、より現場に近い部署に配属された保坂氏は「RPAに対する現場の期待感は大きいと実感している」という。「作業時間が短縮されることにより、確認作業が時間を長くとれるようになったり、決まったルールに従って自動確認が行うことができています。また、繁忙期の業務削減による繁閑の緩和や肉体的・精神的負荷の緩和により、担当者にとってもメリットが実感しやすい点が特徴です」と指摘する。

さらに保坂氏は、「RPAツールは最終的にロジックを組まないと完成しないため、経験値や属人化されているプロセスを可視化し、共有するきっかけになります。それは、業務の継続性、安定性、オペレーション品質向上を図ることにつながり、大きなメリットとなります」と話す。

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東京証券取引所 情報サービス部 兼 大阪取引所情報サービス室 マーケットデータグループ 課長 保坂 豪氏

現場から出てきている350件の要望がすべてRPAで効率化できるわけではないが、改善が望まれている業務が350件洗い出されたということ自体も成果の1つと捉えられる。「RPAで実現できなくても、他の技術で補完ができるのならばそれを実行すればいいと考えてます。本質的な目的は、業務全体をより効率化高度化して、お客様満足度を上げていくことです」(保坂氏)。

岡田氏も「今まで長年やってきた業務をあらためて疑ってみるといういい機会になったと思います。来年度以降は、RPAをベースとしてAIやコグニティブなど他の技術とも組み合わせたより発展的な改革に挑戦したり、あるいはナレッジを積むことで当初は難しかったRPA活用を実現できるようにするなど、業務自動化の範囲を拡大していきたい」と抱負を語る。

RPA導入によって同社の業務改革がどのような進展を遂げるのか、JPXの今後に注目したい。

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