トライアルの開始

導入事例:日本通運株式会社 業種:運輸業

2021年度末までに
自動化による100万時間削減を計画

物流業界は、サプライチェーンのグローバル化やデジタル化など大きな環境変化の中にある。労働力不足が今後さらに加速することが予想される将来に向けて、中長期的な組織形成を考え始めた日本通運は、その対策として定型業務を自動化する施策に打って出た。ここでは、日本通運が業務自動化に向けた取り組みとその経緯について紹介する。

CHALLENGE生産年齢人口の減少による中長期的な組織形成

日本通運は、明治5年に創業された業界最大手の物流会社である。世界各国を網羅したネットワークと、陸海空にわたる様々な輸送モードを基盤とした総合物流企業であるとともに、物流を通じて日常生活はもとより世界の経済・文化を支え、お客様に対して最適な物流を提供している。しかし、時代の変化とともに物流に求められるサービスも変化を余儀なくされてきた。そのような経緯から今までは「物を届けること」に尽力をすればよかったのだが、競争が激化する現在の物流業界ではそれに加えて「付加価値のある物流」サービスが求められるようになってきた。

またその一方で、そうしたサービスを提供する従業員についても、社会構造の変化によって大きな影響を受けている。2004年をピークに減少の一途を辿る日本の人口減は、少子高齢化によって生産年齢人口の減少に拍車がかかっている。それは業界最大手の日本通運においても例外ではない。社員の人口ピラミッドは崩れ、中長期的な視点でみると、労働力不足が大きな課題になることが予想される。

そうした状況の中、多様化するサービスに対応するため新たな時間の創出、また社員がより働きやすい環境にするため、約18,000人いる事務系の定型業務の効率化・自動化に向けたRPAの検討に乗り出した。IT推進部課長 井上 恵太氏は現状の課題と対策について次のように語る。

「IT部門として最新のテクノロジーを活用して従業員に働きやすい環境を提供することが、IT部門の使命だと思っています。もっと理想を言えば『RPAによって会社のマインドを変えること』、そこまで目指していきたいと思っています」

IT部門として最新のテクノロジーを活用して従業員に働きやすい環境を提供することが、IT部門の使命だと思っています。もっと理想を言えば『RPAによって会社のマインドを変えること』、そこまで目指していきたいと思っています。

日本通運株式会社 IT推進部課長 井上恵太 氏

SOLUTION大事なことは社内にRPAを知ってもらうこと

多様化するサービスへの対応から、業務時間を削減するというより「創造的な企画業務、営業活動などの時間創出」に向けての施策に打って出た日本通運。その取り組みは、自動化を進める上で必要不可欠なRPAツールの選定から行なわれていった。2017年12月に日本国内で展開しているRPAツールの6社から比較・検討し、翌2018年3月にUiPathを採用することを決定した。その選定理由について井上氏は次のように語る。

「システム上の必要条件より社内ユーザーは複数のブラウザを使う必要があるので、UiPathだけで多種類のブラウザに対応できる汎用性の高さがUiPathを選んだ1つの理由です。ツールによっては、特定のブラウザにしか対応しておらず、汎用性に疑問があるものが多かったのですが、UiPathはどんなブラウザにも対応でき、当社で稼働している約200のシステムにも柔軟に対応できると思いました。また、グローバルに事業を展開していることから近い将来、国内だけではなくグローバルでもRPAを使うことが予想されるので、グローバルでシェアを持つUiPathを選択しました」

UiPathの採用を決めた日本通運だが、実際使ってみないとわからないこともあり、次の段階としてPoC(Proof of Concept:概念実証)が2018年5月より開始された。PoCの成果について井上氏は次のように語った。

「PoCは7業務を対象に行いました。その中には複雑な条件の業務もあり、試行錯誤の繰り返しでしたが、複雑な業務もPoC を実施したことによって、RPAに『何が向いていて何が向いていないのか』を知るきっかけにもなり、開発のルール作りができたのは良かったと思っています」

またPoCと並行して、RPA化するための最初の案件募集(1次募集)も社内に対して行われていった。1次募集では75案件の応募を得たが、その道のりは決して楽ではなかったという。しかし、社内での実績を着実に積み上げていくことで、1次募集から半年後に行われた2次募集では、234案件の応募を得ることとなった。

そして1次、2次募集で得たRPA化開発の手を止めることなく、さらに大事なことは「社内でRPAとはどんなものかを知ってもらうこと」だと痛感し、2019年5月には社内E-Learningを実施した。そこでは「RPAとは何か」「RPAの活用事例」など、社内の事務業務を担当する約18,000人を対象に行い、経営層を含め89%の参加率となり、社内でのRPAの認知向上の大きなきっかけとなった。

BENEFITIT部門、業務部門のタッグで勝ち取った341,567時間の削減

社内でのRPAの認知を得た日本通運の次のステップは、開発・展開の横展開であったと井上氏は語る。RPAを開発するにあたり、やはり業務が分からないと開発ができない。IT部門以外の業務側の協力が必要だと感じていた井上氏は、IT以外の業務部門からRPA推進担当者を募り、協業・分業体制の仕組みを整えた。そして両部門でタッグを組み、一緒に要件定義をし、開発はIT部門、業務への適用は業務部門と分業することで、広くRPAを展開させることを目指している。RPA推進者は全国に159名おり、「RPAマスター」と呼ばれ、「ブロンズ・シルバー・ゴールド」の3段階に分けた階層教育を計画しており、ブロンズとシルバーから順次対応している。

こうした取り組みが功を奏しRPAの展開が加速度的に進んでいった。2020年3月現在、125の業務でロボットによる自動化を進め、513プロセスを実行しており、その削減効果時間は341,567時間にも及んだ。

またロボット稼働中に端末を占有することがないようにUiPath Orchestratorで一元管理し、仮想端末のロボット(Unattended Robots)で実行している。このOrchestratorで、スケジューリングされたジョブを空いているロボットに負荷分散することで安定的に運用し、導入後からトラブルなく稼働していることも高い削減効果を達成する要因となっている。

導入効果は数字だけではない。正確さが求められるホワイトカラーでの定型業務は、細かな作業のため従業員の心的ストレスがあったが、それらも著しく軽減されたという。また、RPAを推進するIT部門の視点では、「ITを活用して従業員の業務をいかにやりやすくするか」というIT部門の使命を、社内の声を直接聞き、目に見える形で実現していくことがプロジェクトを進める上で一番楽しかったと井上氏は説明する。

NEXT2021年度末までで100万時間削減に向けた取り組み

日本通運では、2021年度末までに100万時間削減をIT中期経営計画の目標としている。その目標を達成するひとつの施策として、RPAとAI-OCRの連携を考えているという。例を挙げると、日本通運では協力会社から提出される作業日報やお客様からのオーダーなど紙媒体や手書きの帳票などが多く存在する。そういった帳票のデータをオペレーターが一つひとつ基幹システムへ入力する運用が行われている。

井上氏は、「理想的にはペーパーレス化を進めることですが、ドライバーに電子入力させるのは難しい。それならば手書きのデータをAI-OCRで読み取ってRPAで自動入力するなど、RPAが処理できる領域を増やすことを計画しています」と、段階的な取り組みについて説明する。

そして今後、新たなシステムの導入やメンテナンス、寿命によるシステムの刷新などが予想されてくる。従来、旧システムから新システムに跨るようなシステム連携はシステム開発を前提に考えていたが、それにはコストも時間もかかる。より安価にシステム連携をする方法のひとつにRPAを活用できるだろうと井上氏は語る。また、当初から計画を予定していた海外展開についても、既にいくつかの国や地域で進行しており、これから本格的に海外展開がされていくという。このように様々な方面から100万時間削減という大きな目標に向かって突き進む日本通運。新たに創出された時間を元に今後、「付加価値のある物流」サービスを展開し、物流業のサービスの在り方そのものを変えていくかもしれない。

The Results

  • 341,567 年間341,567時間の削減
     
  • 18,000 18,000人の事務系ホワイトカラーにRPAの認知
  • 労働力確保 労働人口減少の中で働きやすい環境を提供
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