2022年3月11日

AI Centerの活用で、“小さいが、多数ある判断”を自動化し医療業界のDXへ貢献を―信州大学医学部附属病院の事例

2022年3月11日

AI Centerの活用で、“小さいが、多数ある判断”を自動化し医療業界のDXへ貢献を―信州大学医学部附属病院の事例

人手不足やアナログで煩雑な事務作業、莫大なデータの管理など様々な課題を解決するために、デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が注目されている医療業界。医療の現場でも、RPAやAIなどの導入でDXを実現した事例が増えてきています。昨年開催した「UiPath AI EXPO 3.0」のセッションの中から、医療業界のDXに成功した事例として、信州大学医学部附属病院のケースをご紹介します。

 

同院では、2018年にRPAプロジェクトを開始。コロナ禍においては、新たに増えた新型コロナウイルス対策関連業務の自動化にも積極的に取り組み、2020年度末には通算4,559時間/年の時間創出を達成されました。

 

登壇者は同院の経営管理課、RPA推進室の白木康浩氏。2021年6月からUiPathと共同開発する形でスタートした、AIとRPAを組合わせた高度な自動化の実証実験の成果をまじえ語っていただきました。

 

院内の経理業務から、コロナ禍で増えた作業まで着々と自動化

 

長野県松本市に立地する信州大学医学部附属病院は、県内の地域医療機関の中心的存在です。国立大学病院として質の高い医療を提供し、コロナ禍でも重症・中等症の患者を受け入れ、新型コロナウイルス対策における松本モデルの中核をなす病院としても機能しています。

 

2018年に病院業務の改革を狙いRPAプロジェクトをスタートした際には、たった2名で自動化の実証実験に着手しました。順調に発展を遂げ、同種業務の他部署への水平展開や同一業務の自動化範囲の拡大など、より積極的に自動化に取り組んでいます。

 

2020年5月には、業務そのものを見直し「標準化・平準化する」ことでDXの実現を目指す目的で、RPA推進室を設置。「RPA推進室員は1つ以上のロボットを作成する」というKPIを立て活動しています。「コロナ禍では、新型コロナウイルス対策関連の新たな業務が増え、医療者の日々の負担も増加しましたが、そういった業務を優先的に自動化することで業務負荷を軽減できました」と白木氏は言います。

 

UiPath AI Centerを採用した決め手とは?―初期費用の低さと高い投資対効果(ROI)

 

RPAプロジェクトの初期メンバーである白木氏がAIに興味を持ったのは、2019年に開催された「UiPath Forward Ⅲ Japan」での早稲田大学の自動化事例の講演がきっかけでした。

 

「高度な会計業務の自動化の事例に、当時まさに同じ悩みを抱えていた私は、同じ大学法人であっても自動化のレベルにここまで差があるのかと衝撃を受けました。同時に尊敬の念も強く感じました。もともと、AI単独では一気通貫の自動化はできないのではという懸念をもっていましたが、RPAにAIを適用すれば、病院の経理業務の自動化・効率化が図れるのではという期待感が生まれました」と振り返ります。

 

まずは独自にAI活用の学習・開発に取り組みましたが、なかなか思うように進みませんでした。かといってAIを実装した会計ソフトは、導入・ライセンス費用や学習コストが高額で、システム稼働の安定性は高くても汎用性のあるシステム設計がしづらいというマイナス面もありました。さらに、次に取りかかるべき業務の発見から実現までのアイデアの整理や見極めが難しいという課題も感じていました。

 

UiPath AI Centerを知ったのは、そのような状況だった2021年2月のことでした。

 

「まず費用に非常に驚きました。従前のAI製品の3分の1程度の予算で始められるのは大きなメリットでした。そのうえ、言語学習モデルや画像等の分類モデルも実装されていて、安さだけでなく機能性の高さも特筆すべき点でした。既存のUiPathのRPAとスムーズに連携できることも魅力に感じました。既存の自動化のワークフローにアクティビティを挿入するだけで、すぐにAIが実装できるので、これまでの努力を無駄にすることもなかったからです」

 

まず導入費用の優位性があること。さらに既存RPAとの組み合わせによる汎用性・発展性もあること。そしてUiPath作成のモデルに加え他社のAIモデルも提供されるので、選択肢が多くスタートしやすいという点が導入の決め手となりました。

 

AIの導入で業務の属人化を解消し、心理的負担を軽減

 

同院では、まず大きな課題であった「会計仕訳コードの自動類推」を題材に、AI Centerを活用した自動化に取り組みました。

 

病院会計の分野では、「病院会計準則」というルールに従って会計処理を行う必要があります。病院を対象として会計基準を定める「病院会計準則」は、病院の財政状態や運営状況を適正に把握し、病院の経営体質の強化や改善向上を図ることを目的としています。厚生労働省が定める財務諸表を作成するための基準でもあり、すべての取引や事象を体系的に記録し、正確な会計帳簿を作成する必要があります。

 

その一方で「病院会計準則」の内容は非常に細かく、「医療者が判断するのは困難」と白木氏は説明します。

 

「ルールを作成するにも細かい条件分けが必須で、AIなしには自動化することを思い至らない複雑な領域です。会計監査時には、識別の適正さがチェックの対象となりますが、年度末の決算処理でもし不適正が指摘された場合、さかのぼって財務諸表の修正をしなければならないため、担当者にとっては非常に心理的負荷の高い業務でした」

 

一方、担当者の雇用状況についての課題もありました。

 

「これらの業務は、公務員制度改革の影響により非正規職員が担うことも多く、短い勤務時間内に非常に多くの細かい判断が必要です。そのうえ、非正規職員の業務であるため、正確な識別のための体系的な教育(OJT、OFF-JT)が行われず、過去の経験に頼るしかない部分も多く、属人化しやすい傾向がありました。」

 

一連の課題は、人が判断する作業を可能な限り減らすという方針での AIの導入により、人手を介さない一気通貫の自動化を実現することで解決できました。

 

 

今回の実証で、白木氏は「必ずしもAIは完全ではないこと」にも気づいたといいます。これは重要な発見でした。AI単独ではなくルールベースの自動化との組み合わせにより、効果を得られたからです。

 

「適切な箇所でルールベースの処理を活用することは、AIの実装において非常に意味があることだと思いました。例えば、同じボールペン1本であっても、部門によって『診療経費内のその他消耗品』にいれるか『一般管理費の消耗品』にいれるかで、勘定科目は変わります。この点はAIには判断できないのでルールベースで補完し、精度を向上させました」

 

続いて「AI Centerの利用開始から学習・デプロイまでの順序」をデモで紹介されました。以下に解説します。

 

(1)最初に、AIプロジェクトの名称を設定。プロジェクト名は英数字の表記が基本だが、説明欄は日本語表記が可能。

 

(2)AIに学習させるためのデータ名称を設定。続けて具体的な学習データファイルを登録する。データはCSV形式で。ドラッグ&ドロップでのアップロードが可能。その際、分類するためのAIモデルも登録。今回はUiPathから提供される言語類推のAIモデルを利用。最後に作成ボタンを押す。

 

(3)AI CenterがAIモデルを読み込むのを待つ。ここからの作業で、モデルへの学習や評価の両方を行うために、先程登録したデータとAIの学習モデルを紐付ける。

 

(4)最後にUiPath Studioで利用するためにMLスキルとして登録を行う。登録完了後は、アクティビティから今回のマシンラーニングのパッケージが読み込めるようになる。

 

(5)最後にUiPath Studioの画面で、MLスキルを呼び出せることを確認して完了。後は通常のアクティビティと同じように扱える。

 

AI×RPAの活用で、医療業界全体への貢献も視野に

 

AI Centerの導入の最大の成果は、「人による判断を減らせたこと」だと白木氏は考えています。

 

「RPAの効果として、KPIが見えにくいという課題を感じておられる方は多いと思います。当院でも同様ですが、これは“小さいが、多数ある判断”が業務に残り続けているからではないでしょうか。この小さな判断がある限り、既存の組織はなかなか人材を手放せず、結果的に人材配置の流動化や最適化を妨げてしまうのではないかと思います。

 

当院では、今回のAIによる自動化単独の創出時間は123時間程度でしたが、本来的な価値として“小さいが、多数ある判断”を取り除くきっかけになったことは非常に重要でした。実際、今回の活用事例を他部署へ水平展開する話も進行中です。

 

さらにドラッグ&ドロップで簡単にAIに学習させることができることも大きなメリットです。遠い世界のことのように思えたAIが身近な存在になることで、業務のやり方が画期的に変わるのではないかと思います」

 

今後は管理ツールであるOrchestratorのクラウド版と連携させることで、伝票作成までのフローの自動化を計画しており、さらなる時間創出を見込んでいます。

 

「今回の当院の会計業務の自動化モデルは、『病院会計準則』に則っている医療機関であれば、再利用は充分に可能だと考えています。参考または流用していただくことにより、医師や医療者の働き方改革にもつながり、医療業界全体へも貢献できればと期待しています」と白木氏は結びました。

 

 

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