トライアルの開始

導入事例
三井住友信託銀行株式会社

サーバー型のRPAを全社レベルで展開することで
少量多品種の業務の生産性と品質の向上を図る
信託銀行大手の三井住友トラスト・ホールディングスの三井住友信託銀行は、2017年12月にUiPathの導入を決定し、2018年4月から本格的な運用を開始した。全社での最適化を図るために、予め開発・運用ルールを整備し、しっかりとガバナンス体制を整え、サーバー型で展開している。なぜ同行はサーバー型を選択したのか、UiPathを選定した理由は何なのか、そしてどんな成果を狙っているのだろうか。

少量多品種で煩雑な業務を高品質でこなすことが使命

顧客から株や不動産などの資産を預かり、運用して利益という果実を返すのが信託銀行の仕事だ。その業務の特徴は扱う資産の種類が多様で、細かなプロセスに対応しなければならない点にある。「煩雑な事務を着実に処理することが私たちの存在意義なのです」と三井住友信託銀行デジタル企画部長の米山学朋氏は語る。

米山 学朋氏
デジタル企画部長
米山 学朋氏

こうした“少量多品種”の業務に対応するために、同行ではこれまでも積極的にデジタル化を推し進めてきた。「人間とシステムのハイブリット運用が品質を担保できる」(米山氏)という考え方のもと、財務計数やリスク管理計数等のミッションクリティカルな処理も含め、フロントエンド業務ではエンド・ユーザ・コンピューティング、EUCを取り入れている。

金融サービス業である同行にとって投資の大宗は、人とシステムであり、投資目的は、少量多品種の業務を高品質に保ちながら、どれだけ生産性を上げることができるかだ。この大命題に立ち向かう同行が、常に新たなテクノロジーをウォッチし続けているのは、当然のことだろう。そんな同行がここ数年で注目してきたのが、UIであり、UXであり、AIであり、そしてRPAである。

「特にRPAについては2つの可能性を感じていました。一つは少量多品種への適用です。そこからOCRやAIの活用にも広げていくことができます。もう一つはシステムの開発スタイルの変革です。RPAを活用することで、開発の進め方や運用方法などのマインドセットを変えられるのではないかと考えました」(米山氏)。

より高い生産性を目指してRPAの導入目的を転換

同行は2017年上期に業務を自動化する便利ツールとして単純作業の時間削減を目的にRPAの本格的な検討を開始、グループ全体のデジタルトランスフォーメーションを推進するプロジェクトチームがリードする形で、13の部署で28案件を対象にPoCを行った。年間5,700時間分の業務を自動化することが想定されていた。

「運用も含めてユーザに委ねるクライアント型での活用を考えていました。数ヶ月間のPoCで、それなりに効果があるという感触を得ることができましたが、クライアント型では長い目で見たときの水揚げ効果には限界があることも見えてきました」とデジタル企画部主任調査役の平方壽人氏は当時を振り返る。

同行の場合では、少量多品種の業務を担当する“多役化”になっているのが実態で、業務を標準化することによる生産性向上が望めなかった。また、現場の担当者がロボットを開発すると、ロボットの品質レベルも開発者のスキルに依存することになり、業務を高品質に保ちながら生産性を上げることは難しい。

多くのレガシーシステムを利用しながら複雑な業務をこなす同行にとって、RPAを取り組むことによる業務の可視化とモジュール化は、標準化により生産性向上を狙う強力な武器になると考えた。「単なる自動化ツールにしてしまっては勿体無い」(平方氏)という思考が働いた。

そこで同社はRPAの導入目的を転換する。RPAの導入を統制することで業務効率化の起点にすることと、アジャイル型のシステム開発の領域を広げることにこそ、RPAのポテンシャルが活かせるのではないかと考えたのだ。

米山氏は「2つの目標を達成するために、仮想デスクトップとロボットを組み合わせたサーバー型運用の実現をゴールに設定しました」と話す。クライアント型RPAからサーバー型RPAへと舵を切った瞬間だった。

サーバー型RPAの中から先進性でUiPathを選定

サーバー型RPAを考えると選択肢はそう多くはなかった。既に世界のRPA業界で著名となっていたUiPathを含む4製品に絞って、比較検討が行われた。

評価のポイントは既存のシステムとの親和性と、どう統制するのかという点にあった。親和性という面では、メインフレームや分散サーバーで稼働しているアプリケーションと連携できて、オフィス製品だけでなく、SaaSを含めた他の業務システムを操作できるかどうかが問われた。

また、RPAが定着して浸透すれば、ロボットの数は確実に増え、様々なシステムと繋がるようになる。ロボットがどこで何をしているのを管理しコントロールするガバナンスや、停止時の対応など可用性が課題となる。それにどう対応できるのかも重要なポイントだった。

比較検討の結果、UiPathが選定された。平方氏は「業務案件の特性を踏まえて、各製品でFit & Gapを確認しました。性能面での差はそれほどありませんでしたが、グローバルな製品の中でいち早く日本法人を立ち上げて、UIの日本語化取組みを表明するなど、日本市場へのコミットメントに好感を持ちました」と選定理由を話す。

米山氏は「RPAは黎明期にあります。まだ完成形ではありません。その意味で、どこと組むのかが大事だと考えました。UiPathは日本市場に本格参入したのが早いだけでなく、AIやOCRといった先進テクノロジーに対しても積極的に取り組んでいます。その姿勢を評価しました」とUiPathの先進性を指摘する。

プロセスを管理して全社レベルの最適化を

UiPathの導入を決めたのは2017年12月だが、同社では製品の比較検討と並行して、RPA推進プロジェクトが中心となって、開発標準、業務プロセス、体制の整備が進められていた。現場の裁量で自由にロボットの開発を進めると、野良ロボットが生まれて業務品質が劣化してしまう。PoCでその課題が分かっていた。

そこで、全ての業務効率化の案件を本部が集中的に管理し、RPAで対応するのか、新規にアプリケーションを開発するのかを判断してから動き出すという流れを整備した。目指したのは、効果を生み出す仕組みとRPAの利用実態を把握する仕組み、そしてリスクを防ぎ安定した運用を実現する仕組みを、本格導入の前に整備することだ。

米山氏は「ここがRPAを成功させる1つの試金石です。管理することで全体最適化を図り、結果として生産性を高めていくのが狙いです」とガバナンス強化の重要性を語る。こうした全体的な底上げができるのは、サーバー型RPAのメリットだ。

同行では、RPAをきっかけに業務を見直し、BPRにつなげることを重視している。「全てのRPA化案件で、まず業務フロー図を作って業務単位ごとに中身を整理し、一つ一つのモジュールを標準化することを目指しています」と平方氏は話す。

実際に11月から説明会が開かれると、各事業部門から800件を超える要望案件が寄せられた。時間数にすると約26万時間にもなった。そこから大きな削減効果が期待できそうなものを125件選別してヒアリングをかけてみると、すぐ着手できるものは約半分の64案件、削減想定時間は14万5000時間と試算された。残りは元々のデータが紙ベースで、業務フロー自体を再構築しないとRPA化できないものだった。

「横展開するには、電子化されて構造化されているという2つのステップが必要になります。事務とは構造化された電子データを伝達することです。最小単位の業務プロセスを明確にして、電子化し構造化することがBPRの第一歩です。RPAはそのきっかけにもなります」と米山氏は指摘する。

4月から本番運用を開始し年間60件の開発を目指す

同行では2017年12月にUiPathを導入し、サーバーなどの運用インフラを整備し、ロボット開発に着手した。まずトライアルとして8つのロボットを開発し、4月からサーバー型で運用を開始している。開発案件は待ち行列になっている状況だ。

しかし、同行では野良ロボットが生まれてくる余地はない。前述したガバナンスの仕組みが整備されていることに加えて、IT系のルールを作る業務管理部と全社のデジタルトランスフォーメーションを推進するデジタル企画部、そしてアプリケーションを開発するIT業務推進部が密な連携が図られているからだ。システム案件は全てコントロールできる。

平方 壽人氏
デジタル企画部 主任調査役
平方 壽人氏

「最初のターゲットをカバーするために、月に4つから5つのペースでロボットを開発し、一年で約60のロボットを作っていく予定です。その多くは、社外からもたらされたデータをシステムに入力する業務やシステムとシステムの間を人手でつないでいた業務をロボットに代行させるものです」と平方氏は語る。

人員削減のためのRPAとして捉えると効果に限界があるが、ロボットが人の作業を代行することで、分断された複数の業務が一つのストレートラインになれば、効果やインパクトは大きい。

例えば、顧客の資産を一括して運用し管理するSMA(Separately Managed Account)のような特色ある商品では、運用のバリエーションが多く、顧客ごとの対応が求められ、信託銀行として受託者責任を果たすために、二重、三重のチェックが人手によって行われている。こうした業務をロボットが代行できれば、人が行う業務がシンプルになり、負担が軽減されて、かつ業務の品質の向上につながる。

米山氏は「ロボットに大事なのは処理スピードではありません。開発のスタイルがアジャイル的になるとか、業務がストレートラインになるといった効果をもたらします。人とハイブリッドで効果を上げる業務効率化のプラットフォームとしての役割が大きいと考えています」と語る。

日本法人がコアとなってグローバル標準を生み出せ

同行ではこの1年間で約15万時間分の業務の自動化を目指し、3年後に50万時間を目論んでいる。しかし、米山氏は「これは氷山の一角です。ポテンシャルはもっと大きい」と指摘する。その代表格が紙ベースのデータの存在だ。OCRとの連携など電子化を進める機能が充実すれば、対象となる領域はもっと広がる。

さらに米山氏が注目するのが、AIとの連携だ。「音声認識や画像認識などができるようになれば、非構造化データも構造化できて、扱える領域は飛躍的に広がります。またロボットをルールベースのAIとして活用することも考えられます」(米山氏)。同行では、稼働しているロボットの管理をロボットに行わせることも検討している。こうしたM2M的な発想がRPAの適用範囲を広げることになる。

そこで求められるのがRPA自体の機能の強化である。「UiPathがコミュニティで開発したモジュールをスピーディに公式のものとして認めてくれているのは安心できます。今後も新しいアルゴリズムをどんどん標準機能に組み込んで、機能アップを図ってもらいたい」と平方氏はUiPathの新しい技術に対する迅速な対応に期待を寄せる。

米山氏は「カオスの中で高品質な業務を行うのは日本企業が得意とするところです。だからこそ、少量多品種に対応できるRPAを使いこなせるはず。RPAは日本の信託事務や実務のオリジナリティを活かせる分野です。UiPathの日本法人からグローバル標準を生み出してほしい」と日本の強みを強調する。

日本企業としてどうUiPathを使って顧客に寄り添う高品質なサービスを提供するのか、今後の同行の進化が楽しみである。

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